ダーナ神族は、ケルト神話の中核をなす神々が属する神族のことです。

ケルト神話を現在に伝える書物の1つである「侵略の書」には、アイルランドに上陸した4番目の種族とされています。

同書によると、

  • 1番目:セラの息子パローロンに率いられた24組の男女
  • 2番目:ネヴェと4組の男女
  • 3番目:フィル・ボルグ族
  • 4番目:ダナの息子たち=ダーナ神族
  • 5番目:ミレシアの息子たち=ミレー族=ケルト系ゲール人

となっています。

ちなみに、最初のパローロンに率いられた24組の男女は、ノアの大洪水の300年後にアイルランドに上陸したとあります。

ダーナ神族がアイルランドに到着した当時は、フィル・ボルグ族が支配していました。
ダーナ神族はその先住民であるフォモール族と同盟を締結して、フィル・ボルグ族を打ち破り、アイルランドの支配権を手に入れます。
この戦いは第1次マー・トゥーレスの戦いと呼ばれています。

この戦いによってダーナ神族の王のヌアザは片腕を失ってしまったため、王位を維持することができなくなり、アイルランドの王権はダーナ神族の血をひくフォモール族のブレスに移りました。
ところが、ブレスは王としての資質に欠け圧政をしいたため、アイルランドの国土は荒廃してしまいます。

やがてヌアザは片腕を取り戻すことに成功。
五体満足となったヌアザはブレスから王位を取り戻すことにも成功しました。

王位を追放されたブレスはフォモール族に助けを求めたため、ダーナ神族とフォモール族との間に争いが起きます。
ダーナ神族は一度はフォモール族に屈しますが、ヌアザはダーナ神族の王の地位を光の神であるルー(ルーグ)に譲り、戦いの準備を整えます。
やがて、ダーナ神族とフォモール族の間に第2次マー・トゥーレスの戦いと呼ばれる一大決戦が行われ、両者に大きな損害が発生しつつもダーナ神族が勝利しました。
こうしてダーナ神族は再びアイルランドの支配権を手に入れます。

この後、アイルランドはルーによって長く統治されることになり、ルーの後も王権はダーナ神族に引き継がれます。

しかし、ダーナ神族も結局は滅亡する運命となります。
ダーナ神族の後にアイルランドにやってきたミレー族との戦いに破れ、滅ぼされてしまうんです…

ただし別の伝承によると、ダーナ神族とミレー族との間に和約が成立して、ミレー族は地上を支配し、ダーナ神族は地下の世界を支配することになったともあります。
そのうちダーナ神族は人々の想像の中で次第に小さくなり、妖精と呼ばれるようになったと言われています。

以上のような経緯で語られるダーナ神族ですが、実際の歴史上でどのような存在であったのかよく分かっていません。
ダーナ神族を打ち破ったミレー族は、ケルト系のゲール(ゴイデル)人と考えられており、実在するケルト先住民です。

したがって、ダーナ神族もゲール人がアイルランドを支配する前に実在した民族を象徴していると考えられます。
例えば、アイルランドやブリテン島にメンヒルやドルメンといった巨石遺跡があります。
これらの遺跡を建設した民族は分かっていませんが、炭素測定法によってケルト人が入植する以前建てられたということが分かっています。
そのため、これらの巨石遺跡を建設したのがダーナ神族に象徴される民族ではないかとする説があります。

ですが、その一方で、ダーナ神族の神々はケルト人の間に元々存在していた神々であるとする考えもあります。
この考えだと当然ですが、ダーナ神族がケルト人以前の先住の民族、あるいはその民族が信仰していた神の一群であるという見解は間違いということになります。
現在はこちらの考えの方が定説になっているようです。

ダーナ神族の推定については複雑な事情がありますが、ケルト人によって取り込まれた神々であるのは確かであると言えるかと思います。