「麻の中の蓬」という慣用句があります。

「麻(あさ)と蓬(よもぎ)」と聞くと、その意味をすぐには理解できないかもしれません。

ですが、これら2つの植物が持つ特徴を知れば、この表現の意味が明確になります。

この記事では、「麻の中の蓬」の意味と由来、例文から類義語や英語表現まで詳しく紹介しています。

麻の中の蓬の意味は?

「麻」と「蓬」はそれぞれ植物の「あさ」と「よもぎ」のことで、読み方は「あさのなかのよもぎ」となります。

どんな人物も、良い環境に置かれることで正しい方向に導かれるという意味です。

人は良い環境や善良な人々との交流を通じて、より良い方向へと成長し、自己を改善できるということを示唆しています。

周囲の環境や仲間からの影響の大切さと、それによって良い影響を受ける可能性を強調しています。

麻の中の蓬の由来は?

「麻の中の蓬」は、麻と蓬という二つの植物の特徴から生まれたことわざです。

麻はまっすぐに成長する特性を持ちますが、一方で蓬は曲がりながら広がっていく性質があります。

この自然の法則から、「蓬も麻の中で育てば、その影響を受けて真っ直ぐに成長する」と考えられました。

この現象が人間関係や社会にたとえられ、人が良い影響を受ける環境にいれば、その人も良い方向に成長するという意味になります。

特に人との関わり合いやその人が置かれている状況が、個人の成長や性格に与える影響の大きさを象徴しています。

そして「麻の中の蓬」は、中国の戦国時代の思想家である荀子によって記された「荀子」に由来します。

「荀子」は荀子の教えを集約した書であり、その中の「勧学」という章に

蓬麻中に生ずれば、扶けずして直し

という一節があります。

簡単に訳すと「蓬が麻の中で育つと、支援なしに自然と真っ直ぐになる」という意味です。

この言葉が語源となり、善良な人々との交流が、自然と個人を善の方向に導くことのたとえとして使われるようになりました。

麻の中の蓬の例文をご紹介

「麻の中の蓬」の使い方として、例文を5つ紹介します。

  • 麻の中の蓬というように、我が子も良い友人たちと過ごす時間が増えるにつれ、行動や態度が前向きに変わってきた。
  • 新入社員が先輩たちの良い影響を受けて素早く技術を吸収する様子は、まさに麻の中の蓬の典型だ。
  • 彼女は異文化の中で生活していくうちに、麻の中の蓬の如く成長し、見識を広げた。
  • 勉強に興味がなかった彼も、意欲的な友人たちとの勉強会に参加してから、麻の中の蓬のように、成績が向上し始めた。
  • 麻の中の蓬という教えのように、人は周囲の人間関係に強く影響されるものであり、私たちが肯定的な環境を作り出し、互いに良い影響を与え合うことが、共に成長するために大切なことだろう。

麻の中の蓬の類義語をご紹介

「麻の中の蓬」の類義語として、以下の3つを紹介します。

人は善悪の友による(ひとはぜんあくのともによる)

人が良い友人と付き合えば善人に、悪い友人と付き合えば悪人になるという意味です。

周囲の人々との関わり方が、個人の性格や行動に大きな影響を与えることを強調しています。

朱に交われば赤くなる(しゅにまじわればあかくなる)

朱色のものに触れると赤く染まることから、人は交わる友人や環境によって性質が変わるということを意味します。

良い環境にいれば良い影響を受け、悪い環境にいれば悪い影響を受けるという教訓を含んでいます。

水は方円の器に随う(みずのほうえんのうつわにしたがう)

水が容器の形に従って形を変えるように、人も置かれた環境や状況によって変わるという意味です。

環境や交友関係によって、影響を受けやすい人の性質を指しています。


これらの表現は、人が周囲の影響を受けやすいという共通のテーマを持っており、環境や交友関係で良い方向にも悪い方向にも変わるという意味を持ちます。

そのため、「麻の中の蓬」より広い意味を持ち、ネガティブな文脈でも使われるため、反対の意味をもつ表現になることもあります。

麻の中の蓬の対義語をご紹介

「麻の中の蓬」と反対の意味を持つ表現を以下に2つ紹介します。

藪の中の荊(やぶのなかのいばら)

「藪」は茂みや密林を指し、「荊」はいばらや棘のある植物を意味します。
荊は、藪の中では真っ直ぐには育ちません。

そこから、悪い環境に置かれると、それに影響されて悪い方向に育ってしまうことを意味しています。

人が周囲の影響を受けやすいという点では、「麻の中の蓬」と共通した意味を持ちますが、「藪の中の荊は」悪い環境では悪い方向へ育つという点で、反対の意味合いを持ちます。

泥中の蓮(でいちゅうのはち)

泥の中から美しい蓮が咲くことから、悪い環境や困難な状況の中でも、美しいものや価値あるものが生まれることを示しています。

この場合、環境に染まることなく、むしろその中で良いものを生み出す力があることを強調しています。

麻の中の蓬の英語表現をご紹介

「麻の中の蓬」の英語表現としては、“Keep good men company and you shall be of the number.”が最もふさわしいでしょう。

「善良な人々と一緒にいれば、善人の仲間になれる」という意味で、良い環境や人々の中にいれば、自然と良い影響を受けて、自身も良い人間になれるという考え方を示しています。

まとめ

「麻の中の蓬」は、良い環境や人々との交流が、個人を良い方向へ導くことを象徴する表現で、基本的にポジティブな文脈で使われます。

この記事で紹介した類義語や対義語も、人が環境や他人から受ける影響の大きさを示していますが、使われる文脈によって意味合いが大きく変わることがあるので注意が必要です。

ただ、どんな状況であれ、人間は周囲の環境や人間関係の影響を受けやすいものです。

その影響力の大きさを理解し、自らを肯定的に変化させる機会を積極的に選ぶようにしたいですね。