行政手続法とは、簡単に言うと、行政活動によって国民の権利や義務が侵される場合に、事後による救済措置ではなく、事前に予防措置を講じることで、国民の救済を図るために制定された法律です。

具体的には、処分される前に意見陳述をする機会を設けたり、処分が行われるときのルールが定められています。

ただし、全ての行政処分に行政手続法の規定が適用されるわけではなく、一定の範囲で適用が除外されるケースがあります。

この記事では、行政手続法の適用除外について、詳しく説明していきたいと思います。

行政手続法の適用除外

行政処分の適用除外

行政手続法の3条1項では、第2章から第4章の2までの規定について、以下の処分や行政指導を適用しないと定められています。

第2章~第4章の2までには、行政処分や行政指導についてのルールが定められているため、ザックリと言ってしまえば、行政庁の行為でも以下に当たるものは行政手続法が適用されませんよ!ということになります。

  1. 国会の議決による処分
  2. 裁判所の裁判による処分
  3. 国会の判断を踏まえた処分
  4. 検察官会議による処分・会計検査の行政指導
  5. 刑事事件に関する法令に基づいて行われる検察官、検察事務官、司法警察職員の処分・行政指導
  6. 税金関係と金融商品取引の犯則事件に関する法令に基づいて行われる処分・行政指導
  7. 教育、訓練の目的を達成するために行われる学生、訓練生に対する処分・行政指導
  8. 刑務所で収容のために行われる処分・行政指導
  9. 公務員に対して行われる職務・身分に関する処分・行政指導
  10. 外国人の出入国、難民の選定、帰化に関する処分・行政指導
  11. 専ら人の学識技能に関する試験の結果、検定の結果についての処分
  12. 利益相反の調整を目的とした法令に基づく処分・行政指導
  13. 警察官等、公益を確保するために行使すべき権限を法律上与えられた者による現場での処分・行政指導
  14. 報告または物件の提出を命ずる処分、その他その職務の遂行上必要となる情報収集を目的とする処分・行政指導
  15. 審査請求に対する行政庁の裁決、決定、その他の処分
  16. 聴聞手続きにおいて法令に基づいて行われる処分・行政指導

命令等の適用除外

行政手続法の3条2項では、以下の命令等を定める行為については、第6章の規定は適用しないとあります。

ここでの命令等というのは、法律に基づく命令や規則、審査基準、行政指導指針のことを指します。

また、第6章は意見公募手続についてのルールが定められています。

行政が命令等を作るときには、基本的には、行政が勝手にルールを作成するのではなく、広く一般の意見も募集して作るべきとされています。

具体的には、行政側は命令等の案と関連する資料をあらかじめ公示して、意見の提出先と意見の提出のための期間を定めて、広く一般の意見を求めなければならないということになります(第39条)。

以下にあげる行政の行為は、このような意見公募手続を必要としないということです。

  1. 法律の施行日を定める政令
  2. 恩赦に関する命令
  3. 命令等を定める行為が処分に該当する場合の命令、規則
  4. 施設や地域等を指定する命令・規則
  5. 公務員の給与、勤務時間、その他の勤務条件を定める命令等
  6. 審査基準、処分基準、行政指導指針で公にされないもの

地方公共団体による行為の適用除外

  • 地方公共団体の機関がする処分
  • 地方公共団体の機関がする行政指導
  • 地方公共団体の機関に対する届け出
  • 地方公共団体の機関が命令等を定める行為

上にあげた地方公共団体の行為は、行政手続法の第2章から第6章までは適用されません。

ただし、全ての行為が適用除外となるのではなく、根拠が法律であるのか、条令であるのかによって違いが出てきます。

簡単にまとめると、以下のようになります。

地方公共団体の機関がする処分
  • 根拠が「条例」「規則」→適用除外
  • 根拠が「法律」「命令」→適用される
地方公共団体の機関がする行政指導

根拠に関係なく、全てが適用除外となります

地方公共団体の機関に対する届け出
  • 根拠が「条例」「規則」→適用除外
  • 根拠が「法律」「命令」→適用される
地方公共団体の機関が命令等を定める行為

根拠に関係なく、全てが適用除外となります

これらの地方公共団体の行為は意見公募手続も不要となります。

特に、「地方公共団体の機関がする処分」と「地方公共団体の機関に対する届け出」が、根拠が「条例」「規則」にあると適用除外となり、根拠が「法律」「命令」にあると適用されることになり、ちょっとややこしいですね…

なぜこのような規定になったのかというと、地方自治の尊重のためと一般的に考えられています。

つまり、行政手続法は国会で制定されたものなので、条例という地方の独自のルールを根拠に処分を行う場合は、その手続きは条例にまかせればよく、根拠が法律にある処分のみ、その手続きは行政手続法が適用されるという考えです。

行政機関同士の行為の適用除外

第4条では、行政機関同士の行為には行政手続法は適用されないという規定があります。

基本的に行政機関だけが対象で、国民が対象になることはないので、国民の権利保護を目的とした行政手続法は適用されないということになります。

ここは簡潔にまとめることができなかったので(汗)、以下に行政手続法の条文をそのまま載せています。

第四条 国の機関又は地方公共団体若しくはその機関に対する処分(これらの機関又は団体がその固有の資格において当該処分の名あて人となるものに限る。)及び行政指導並びにこれらの機関又は団体がする届出(これらの機関又は団体がその固有の資格においてすべきこととされているものに限る。)については、この法律の規定は、適用しない。
2 次の各号のいずれかに該当する法人に対する処分であって、当該法人の監督に関する法律の特別の規定に基づいてされるもの(当該法人の解散を命じ、若しくは設立に関する認可を取り消す処分又は当該法人の役員若しくは当該法人の業務に従事する者の解任を命ずる処分を除く。)については、次章及び第三章の規定は、適用しない。
一 法律により直接に設立された法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人
二 特別の法律により設立され、かつ、その設立に関し行政庁の認可を要する法人のうち、その行う業務が国又は地方公共団体の行政運営と密接な関連を有するものとして政令で定める法人
3 行政庁が法律の規定に基づく試験、検査、検定、登録その他の行政上の事務について当該法律に基づきその全部又は一部を行わせる者を指定した場合において、その指定を受けた者(その者が法人である場合にあっては、その役員)又は職員その他の者が当該事務に従事することに関し公務に従事する職員とみなされるときは、その指定を受けた者に対し当該法律に基づいて当該事務に関し監督上される処分(当該指定を取り消す処分、その指定を受けた者が法人である場合におけるその役員の解任を命ずる処分又はその指定を受けた者の当該事務に従事する者の解任を命ずる処分を除く。)については、次章及び第三章の規定は、適用しない。
4 次に掲げる命令等を定める行為については、第六章の規定は、適用しない。
一 国又は地方公共団体の機関の設置、所掌事務の範囲その他の組織について定める命令等
二 皇室典範(昭和二十二年法律第三号)第二十六条の皇統譜について定める命令等
三 公務員の礼式、服制、研修、教育訓練、表彰及び報償並びに公務員の間における競争試験について定める命令等
四 国又は地方公共団体の予算、決算及び会計について定める命令等(入札の参加者の資格、入札保証金その他の国又は地方公共団体の契約の相手方又は相手方になろうとする者に係る事項を定める命令等を除く。)並びに国又は地方公共団体の財産及び物品の管理について定める命令等(国又は地方公共団体が財産及び物品を貸し付け、交換し、売り払い、譲与し、信託し、若しくは出資の目的とし、又はこれらに私権を設定することについて定める命令等であって、これらの行為の相手方又は相手方になろうとする者に係る事項を定めるものを除く。)
五 会計検査について定める命令等
六 国の機関相互間の関係について定める命令等並びに地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二編第十一章に規定する国と普通地方公共団体との関係及び普通地方公共団体相互間の関係その他の国と地方公共団体との関係及び地方公共団体相互間の関係について定める命令等(第一項の規定によりこの法律の規定を適用しないこととされる処分に係る命令等を含む。)
七 第二項各号に規定する法人の役員及び職員、業務の範囲、財務及び会計その他の組織、運営及び管理について定める命令等(これらの法人に対する処分であって、これらの法人の解散を命じ、若しくは設立に関する認可を取り消す処分又はこれらの法人の役員若しくはこれらの法人の業務に従事する者の解任を命ずる処分に係る命令等を除く。)