「引導を渡す」という慣用句があります。

仏教用語が語源となりますが、現在でも一般的によく使う表現ですね。

よく似た言葉で「印籠を渡す」というものがありますが、意味に違いはあるのでしょうか?

この記事では、「引導を渡す」の意味と由来、例文から類義語や対義語まで詳しく紹介しています。

引導を渡すの意味は?

「引導を渡す」は「いんどうをわたす」と読みます。

「引導を渡す」とは、終わりや失敗を迎えさせる、またはその手助けをするという意味です。

もともとは仏教用語で、死者の魂を極楽へ導く儀式を指していました。

現在では比喩的に、最終的な宣告をして諦めさせるという意味になりました。

引導を渡すの由来は?

「引導」という言葉は、前述のとおり、元々は仏教用語であり、お葬式で僧侶が故人の魂が迷わずに悟りを開けるよう、または死の避けられない現実を受け入れさせるために唱える特定の経文や法言を指します。

仏教の葬儀儀式においては、引導を行う場面が設けられており、そこでは伝統的に各宗派から伝わる法言(引導法言)が用いられ、亡き人を仏の世界へと誘います。

この背景から、「引導を渡す」という表現は、終末を告げてあきらめさせるという意味で用いられるようになりました。

また、この儀式の起源は、中国の唐の時代に遡り、黄檗希運(おうばくきうん)という禅僧が亡くなった母を悼む際に始まったとされています。

印籠を渡すは間違い!

「引導を渡す」と間違いやすい表現として、「印籠を渡す」があります。

確かに「引導(いんどう)」「印籠(いんろう)」は発音が似ていることもあり、何からの関係があると思われがちです。

ところが、実際には「印籠を渡す」という慣用句は存在せず、辞書などにも載っていない言葉です。

おそらく、「引導」と「印籠」を混同してしまうのは、時代劇の象徴的なシーンが強い印象を残しているからでしょう。

時代劇では、しばしば大名や役人が自分の権力を示すために印籠を見せる場面が描かれます。

印籠は、その持ち主の身分や権力を証明するアイテムであり、これを見せることで相手を服従させる効果があるとされています。

しかし、この「印籠を渡す」という行為自体は、実際の歴史や文化の中では特に慣用句として定着しているわけではなく、またそのような習慣があったわけでもありません。

時代劇のドラマチックな演出の一環として、視聴者に強い印象を与えるための手法の一つとして用いられているに過ぎないということです。

なので、「印籠を渡す」という慣用句は存在せず、時代劇の中での劇的な演出の一部と理解するのが適切ですね。

引導を渡すの使い方は?

「引導を渡す」の使い方として、5つの例文を紹介します。

  • その老舗の店は時代の変化についていけず、最終的には市場から引導を渡される形で閉店することになった。
  • 友人が不本意な仕事に苦しんでいるのを見て、やりたくないことから手を引く勇気を持つよう引導を渡した
  • 彼は長年続けたが成果が出ない研究に対して、指導教授から引導を渡され、新しいテーマに切り替えることになった。
  • 業績不振が続いているため、現社長は近いうちに取締役会から経営から手を引くよう引導を渡されるかもしれない。
  • 今度の試合では、圧倒的な力の差を見せつけて、相手が引退を決意するほどの衝撃を与えることを目指し、引導を渡すつもりだ。

引導を渡すの類義語は?

「引導を渡す」の類義語として、以下の3つを紹介します。

お払い箱(おはらいばこ)にする

主に職場や組織内で、ある人物を解雇や降格などの形で排除することを意味します。

神道の祓いの儀式から来ており、不要なものや災いを取り除くという意味合いがあります。

そのため、「お祓い箱」ということもあり、元々はこちらが正しい表記となります。

ビジネスの文脈では、パフォーマンスが標準以下の従業員を職から外すことを指すことが多いです。

観念(かんねん)させる

ある人に現実を受け入れさせる、またはあきらめさせることを意味します。

特に、抵抗や反論を続ける相手に対して、その努力が無駄であることを悟らせる際に用いられます。

心理的な圧力や論理的な説得を通じて、相手に現状を受け入れさせることが目的です。

とどめを刺(さ)す

本来は戦闘や狩猟の文脈で使われる言葉で、敵や獲物に致命的な一撃を加えることを意味します。

転じて、あるプロセスや活動に終止符を打つ、決定的な行動をとることを指すようになりました。

ビジネスや競争の場面では、相手や問題に対して決定的な打撃を与えて事態を終結させる意味で使われることがあります。

引導を渡すの対義語は?

「引導を渡す」の直接的な対義語をあげるのは難しいですが、次のような表現が考えられます。

慰留(いりゅう)する

ある人物が辞めようとする際に、その意思を変えさせようと努める行為を指します。

この場合の主体は、辞めようとしている人を引き留めようとする組織や個人です。

例えば、会社が価値ある従業員が退職を申し出た際に、その決意を変えさせるために待遇改善やポジションの変更などの提案をすることが「慰留する」行為にあたります。

相手に対してポジティブなアクションを起こし、関係を継続させたいという意向がある場合に用いられます。

往生際(おうじょうぎわ)が悪い

自らの立場や状況が終わりに近づいているにも関わらず、それを受け入れずに無駄な抵抗を続ける様子を指す表現です。

この場合の主体は、状況の終結を受け入れられない人物自身です。

例えば、プロジェクトの失敗や職を失う状況にあっても、その現実を認めずに場を引き延ばそうとする行動がこれに該当します。

終わりを迎えるべき時に、適切に対応できない人の態度を批判的に表現する際に使われます。

以上の表現は、終結へのアプローチにおいて主体が異なる点が特徴です。

「慰留する」は他者が関係の継続を望む場合に使われ、「往生際が悪い」は本人が状況の終わりを受け入れられずにいる状態を指します。

引導を渡すの英語表現は?

引導を渡すの英語表現としては、次のようなものがあります。

give the last rites

元々は宗教的な文脈で、死にゆく人に対して最後の儀式を行うことを意味します。

転じて何かを終わらせる、特に終末を迎えさせる行為を指すのに使われることがあります。

例文をあげると、次のようになります。

The board decided it was time to close the chapter on the underperforming division, effectively giving it its last rites.

(取締役会は、業績不振の部門に対して章を閉じる時が来たと判断し、事実上引導を渡すことにした。)

put an end to

何かを終わらせる明確な行動を取ることを意味します。

ビジネスや関係、あるいはプロジェクトなど、さまざまな状況で使うことができます。

例文をあげると、次のようになります。

The CEO puts an end to the ongoing speculation about the company’s merger by officially announcing there would be no deal.

(CEOは、会社の合併に関する憶測に公式に取引がないことを発表することで、引導を渡した。)

まとめ

「引導を渡す」という表現は、終末を迎えさせる意味で用いられ、仏教の葬儀儀式から来ています。

特に「印籠を渡す」と混同しやすい点に注意が必要です。

時代劇での印象的なシーンもあり、いかにもふさわしい表現のように思えますが、意外にも「印籠を渡す」という慣用句は存在しません。

仏教の儀式が由来になっているのを知ると、この間違いも防げるでしょう。

人生においては、何事も引き際というものがありますが、それを見極めるのは難しいものです。

自身の人生を豊かにするためにも、どこで区切りをつけるかはしっかりと考えるようにしたいですね。