将棋の駒である「歩」の裏面には、「と」と似たような文字が書かれています。
敵陣に入ると裏返すことができ、「金」と同じ力を持つようになります。
そのため、「と金」と呼ばれることもあります。
でも、なぜ「歩」の裏の文字が「と」になっているのでしょうか?
これには、諸説あるようです。
また、「と金」から「成金」という言葉が生まれたとされており、その背景を知るとかなり興味深いものがあります。
この記事では、「歩」の裏が「と」である理由について、詳しく解説していきます。
「金」のくずし字説
「歩」以外にも、「香車」「桂馬」「銀」の駒の裏面には、「金」に似ているけれども、完全な「金」とは異なる文字が記されています。
これは、草書体、またはくずし字と呼ばれる書体が使用されているためです。
草書体は、速く書くために字画が省略されることが多い漢字の書体で、古書などで見られる複雑で読みにくい文字がその一例です。
この省略された形の「金」が、「香車」「桂馬」「銀」の裏面に記されているということです。
そのため、「歩」の裏にも、元々は「金」と書かれていたと考えられます。
ところが、歩の駒が多いため、書くのが面倒になり、徐々に文字が崩れて現在の「と」に似た形になったというのが一つの説です。
「止」の略字説
「止」の略字という説もあります。
「歩」という文字は、「止」と「少」が組み合わさってできていますよね。
なので、「歩」が「金」になったことを一目で識別できるように、「歩」の一部である「止」を取り入れたという話があります。
「今」の略字説
さらに、「今」の略字という見方もあります。
中世から近世にかけての日本では、同じ発音を持つ漢字を異なる意味で使うことが一般的でした。
「今」は「いま」「コン」と読むことができる他、「キン」という読み方もあります。
このため、「金(キン)」と同じ発音を持つ「今(キン)」が当て字として使用されることがありました。
この背景から、「歩」の裏には「金」を意味する「今」の略字が使われ、それが「と」に似た形になったという説があります。
実際に「今」の略字を見ると、確かに「と」に似ていると感じられるかもしれません。
以上のように、「歩」の裏が「と」になっている理由については、複数の説があり、どれが正しいのかは分かっていません。
ただ、注意したいのは、「歩」の裏の文字は、「と」ではなく、似た略字であるということですね。
なので、少なくとも、何らかのくずし字や略字であることは間違いないようです。
また、現代の市販の将棋セットでは、駒のサイズが小さいため、裏面にはカタカナの「ト」が使われることがあります。
ですが、これは略字が「と」に見えるという解釈に基づいているため、意味合いが異なりますね。
今までの考察からすると、「ト」と書くのは間違いということになりそうです。
成金の由来は「歩」
「成金」という言葉はよく知られていると思います。
短期間で大きな富を得た人を指す言葉で、特に新興の富裕層や急速に財を成した人々を意味します。
特に、新しく得た富に対する経験や洗練が不足しているというニュアンスが含まれています。
実は、この「成金」という言葉は、将棋が由来とされています。
敵陣に入った「歩」が「金」と同じ力を持つようになることから、急激に富を得ることを「成金」と表現するようになりました。
江戸時代から成金という表現はあったようですが、1906年の株式市場の暴落時に大儲けした鈴木五郎の話題により広まったとされています。
まとめ
以上のように、「歩」の裏が「と」に見える理由には様々な説がありますが、確かなのは、実際には「と」ではなく、似た略字であるということです。
この小さな違いは、将棋の駒の歴史や文化的背景を理解する上で興味深いポイントですね。
また、「成金」という言葉の由来が将棋にあることも、この伝統的なゲームの魅力の一つと言えるでしょう。