「呉越同舟」という故事成語があります。
仲が悪い者同士でも、共通の利益のために協力し合うことを意味します。
学校の古文や漢文の授業などで習うことも多いでしょう。
特に背景となる由来を知ると興味深いものがあり、意味を理解するのにもイメージしやすいかと思います。
この記事では、「呉越同舟」の意味と由来、例文から類義語や対義語まで詳しく紹介しています。
呉越同舟の意味は?
「呉越同舟」は「ごえつどうしゅう」と読みます。
本来敵対関係にある者同士が、ある状況や目的のために一時的に協力することを意味する言葉です。
後ほど詳しく説明しますが、春秋時代の呉と越という二国が敵対関係にあったにも関わらず、ある時、同じ舟に乗り合わせたことに由来しています。
その際、互いの安全を確保するために協力し合ったという故事から、利害や目的が一致することで、一時的に手を組むことを指します。
ただ、同じ場に居合わせた仲の悪い者同士が激しく言い争う様子を描写していると解釈されることもあるようです。
ですが、そういう状況であっても、お互い協力し合うという意味で用いられるのが一般的です。
呉越同舟の由来は?
「呉越同舟」という成語は、孫氏が著した「孫子諺義」内の「常山の蛇勢」という節に由来します。
この節では、常山の蛇という伝説の蛇が長い尻尾と頭をうまく動かして戦うように、戦闘においてどのように行動するのが効果的なのかという議論が出てきます。
孫子は、敵対する呉と越の国の人々が同じ船内に居合わせた状況を引用します。
そして、たとえ敵同士であっても、暴風雨に直面した時は、互いに協力するであろうと説きました。
このエピソードから、「呉越同舟」という成語が生まれ、兵法上の深い意味を持つようになりました。
仲が悪い者同士でも共通の危機に際しては互いに支え合うべきであり、そのような結束は軍隊の機能性を向上させるという考え方を示しているというわけです。
呉越同舟の使い方は?
「呉越同舟」の使い方として、例文を5つ紹介します。
- 呉越同舟というように、普段は意見が合わない住民たちだったが、地域の環境問題に直面したとき、一致団結して対策を講じるようになった。
- 政治的に対立する二つの国が、自然災害への対応で手を組んだ。国境を越えた呉越同舟の姿勢が見られた。
- 業界の危機に直面し、普段は競合関係にある企業が共同でプロジェクトを行うことになり、新たな技術開発のために呉越同舟で手を組むことになった。
- スポーツの世界でライバル関係にある二人の選手が、チャリティーイベントで共演し、互いに支援し合った。まさに呉越同舟の実例だ。
- 研究分野で異なる立場にある二つのグループが、重要な発見を目指して力を合わせた。異なる背景を持つ両者の協力は、呉越同舟の典型的な事例と言えるだろう。
呉越同舟の類義語は?
「呉越同舟」とよく似た意味を持つ表現として、次の3つを紹介します。
楚越同舟(そえつどうしゅう)
この成語も「呉越同舟」と同様に、本来敵対関係にある者同士が、特定の状況下で協力することを意味します。
楚と越も古代中国で敵同士だった国であり、両国が共通の目的や困難に直面した際に協力する様子を表しています。
基本的な意味合いは「呉越同舟」と同じで、敵同士でも共通の問題解決のためには協力することを示唆しています。
同舟相救う(どうしゅうあいすくう)
文字通りには同じ船に乗っている人々が互いに助け合うことを意味します。
より広義には、困難な状況や危機に際して、立場や過去の対立を超えて人々が協力し合うことを表します。
共通の目的達成や危機の克服のために、互いに支援し合うべきだという教訓を含んでいます。
共同戦線(きょうどうせんせん)
もともと軍事的な用語から来ており、異なるグループや国が共通の敵に対抗するために結成する同盟を指します。
現代では、政治的、社会的、経済的な文脈で用いられ、共通の目標や課題に対して、異なる団体や組織が力を合わせることを意味するようになりました。
協力と団結の精神を強調し、共通の利益のために一致協力することの重要性を示しています。
呉越同舟の対義語は?
「呉越同舟」と反対の意味を持つ言葉としては、同床異夢(どうしょういむ)があげられます。
表面上は同じ目的や立場にいるように見えるが、実際にはそれぞれ異なる目的や夢を持っている状況を指す言葉です。
文字通りには「同じ床で寝ているが、夢は異なる」という意味で、外見上の一致や協力関係があっても、内心では各自が異なる利害や目標を追求していることを暗示しています。
「呉越同舟」は異なる者同士の協力を意味するのに対し、「同床異夢」はその協力が表面的で、本質的には利害が一致していない状況を表します。
まとめ
呉越同舟は、本来敵対する呉と越の国が同じ船に乗り合わせ、共通の困難に直面した際に協力し合う様子から来た成語です。
由来は、非常時における互いの協力の必要性を象徴しており、孫子の戦略的思考を反映したものと言えるでしょう。
面白いことに、この成語は、普段は対立する者同士でも、共通の目的や危機に際しては協力し合うべきだという、単純ながらも深い教訓を私たちに教えています。
この考え方は、現代社会においても非常に重要であり、異なる立場や背景を持つ人々が共同で問題に取り組む際の指針となりますね。