ルーグの出自

ルーグ(ルー)は、ケルト神話に登場する光の神です。
名前は「光り輝くもの」という意味があります。
よく太陽に例えられるので、太陽神といってもよいと思います。

様々なファンタジー系のゲームや小説でおなじみのクーフーリンの父とも言われています。

ルーグの生い立ちは複雑で、ダーナ神族のディアン・ケヒトの息子のキアンとフォモール族のバロールの娘のエスニエの間に生まれた男子でした。
バロールは自分の孫によって殺されるという予言を恐れて娘のエスニエを洞窟に閉じこめたので、彼女に息子ができたということを知りませんでした。
そして、ルーグは生まれてから誰にも知られずに育ち、ダーナ神族が一時フォモール族に屈していたときに、突如アイルランドに現れます。
成人するまでの間はケルト神話の海神であるマナナン・マクリルに育てられたという話もあります。

万能神としてのルーグ

ある日のこと、ルーグはいきなりダーナ神族の王であるヌアザの宮廷を訪れます。
このとき、ルーグは以下の技術を持っている者としてヌアザに面会を求めますが、それぞれの門番に拒否されるというエピソードがあります。

  1. 建築家
  2. 鍛冶屋
  3. 戦士
  4. ハーブ奏者
  5. 詩人
  6. 魔術師
  7. 医者
  8. 祝杯係
  9. 金属加工師

一方で別の記述では、全ての門に入れてもらい、それぞれの達人と勝負して勝つという話もあります。

ルーグは「こららの技術を全て持ち合わせている者はいるのか?」と問いかけると、ヌアザはルーグにチェスの勝負を持ちかけます。
ルーグはここでも見事に勝利しました。
これによってルーグはダーナ神族の仲間入りを果たします。
さらに、ヌアザから王位を継承してダーナ神族の軍勢を率いることになります。

こららの諸芸に秀でたため、ルーグは「サウィルダーナハ(百芸に通じた)」と呼ばれました。

このエピソードはルーグが万能神としての性格も持ち合わせていることを示しているでしょう。
様々な神話で、太陽神=最高神=一番強い者と相場は決まっており、さらに太陽神はあらゆるものを超越する万能の神であることも多いんです。
太陽の崇拝は古代の宗教・神話では一般的で、太陽があらゆるものを育む存在としてイメージされていたことにつながっています。

魔王バロールを倒したルーグ

ヌアザから王位を譲り受けたルーグは、フォモール族との一大決戦でダーナ神族の軍勢を指揮することになります。
第2次マー・トゥーレスの戦いと呼ばれる決戦で、ダーナ神族は大きな損害を被りながらも勝利を収めます。
この勝利の立役者もルーグでした。

戦いの中でダーナ神族は苦境に陥りますが、ルーグは自ら前線に立ち、片目をつぶって片足で味方のまわりを回りながら全軍を鼓舞します。
このとき、フォモールの王であったバロールがこれが誰であるかを見ようとします。
(自分が殺されると予言された孫なんですけどね 汗)
バロールの目が開かないうちに、ルーグは弩で石を打ち込み、バロールの目が飛び出してバロールは倒れます。
これをきっかけにフォモールの軍勢は敗走し始め、ダーナ神族は勝利を得ることになったというわけです。

このエピソードでのルーグの行動が奇妙ですよね。
単にバロールの気を引くためだけの行動かもしれませんが。

ただ、片目や片足が象徴しているのは、「魔法」や「知恵」という考え方もできるんです。

例えば、北欧神話の主神であるオーディンは片目をミーミルの泉に差し出して知恵を得ています。
この記事で触れたルーグの祖父にあたるバロールも一つの目しかなく(あるいは片方の目が魔眼という説もあり)、その目から光線が出てきて、にらみつけられた者は死んでしまうというものです。

そういうわけで、ルーグが片目をつぶって片足で駆け回ったのは、魔術のまじないの行為であったという解釈ができるということです。
あくまで、管理人の個人的な考えではありますが…

ケルト神話の世代交代

フォモール族との戦いに勝利した後、ルーグは長きにわたってアイルランドを統治しました。
その期間は40年とも。

ヌアザからルーグに王位が移ったのは、古き王から新しき王へと世代が交代したことの象徴と考えられます。
ここに何らかの歴史的事実が反映されているとも考えられますが、それに対応する具体的な事実は確認されていないようです。
少なくとも、身体的に障害のある古き王から若くてより優秀な王に取ってかわることで、国が繁栄するということは示されていると思います。

ルーグはダーナ神族の王であるヌアザや長老的存在であるダグザと比べると、あらゆる技芸に通じた文化的な神様です。
どこか古めかしく原初的な世界に、突如として文化的な光を放ったかのような印象を受けます。
そこに、文明の進化による世代交代の様相が反映されていると考えられます。