「月夜に釜を抜かれる(つきよにかまをぬかれる)」という慣用句があります。

油断した結果、大切なものを失ったりして、失敗することを意味します。

普段はあまり使うことはないかもしれませんが、文学作品などでは見かけることがあります。

この記事では、「月夜に釜を抜かれる」の意味と由来、例文から類義語や対義語まで詳しく紹介しています。

月夜に釜を抜かれるの意味は?

「月夜に釜を抜かれる」とは、注意が他に向いている隙に、大切なものを失ってしまうことを意味する日本のことわざです。

美しい月夜に見とれている間に、気づかないうちに釜(大切な物)を盗まれるという故事から来ています。

この表現は、油断や不注意が招く意外な損失や失敗を戒める際に使われます。

月夜に釜を抜かれるの由来は?

「月夜に釜を抜かれる」の由来は、江戸時代に井原西鶴の死去後に刊行された遺稿集の「西鶴織留(さいかくおりどめ)」にあると考えられています。

江戸時代の町人の生活を描いたもので、その中に「月夜にかまぬかれたる」という記述があります。

寝ている間に、荷物を盗人にとられたというシーンです。

また、大正時代に書かれた永井荷風の小説「偏奇館漫録」にも、同じような表現が見られます。

ここで、「釜」というのは、食事を作るために欠かせない、生活に密接に関わる道具です。

そして、月明かりの夜は周囲がはっきりと見えるため、通常、泥棒は行動を避けると考えられがちです。

ところが、月夜に泥棒が出ないという油断をしてしまうと、釜を盗まれてしまうことがあるというわけです。

このような背景から、「月夜に釜を抜かれる」は「大きな油断や不注意」を表すようになったと考えられています。

「釜を抜かれる」という表現には、古い時代の調理方法が関係しています。

かつては「竈(かまど)」に火を入れ、その熱で釜の底を加熱して料理をしていました。

竈と釜は一体型で、釜は竈の穴にぴったりとはまる形状で、調理後には釜を引き抜くことができました。

この調理法から、「盗まれる」や「取られる」ではなく、「抜かれる」という言葉が使われるようになったようです。

月夜に釜を抜かれるの使い方をご紹介

「月夜に釜を抜かれる」の使い方として、5つの例文を紹介します。

  • 旅行中に景色の写真に夢中になっている間に、ホテルの部屋から大事なカメラ機材が盗まれてしまった。月夜に釜を抜かれるような出来事だ。
  • 会社のプロジェクトが順調に進んでいると油断していたら、競合他社に大きな市場を奪われてしまった。まさに月夜に釜を抜かれる状況だった。
  • 月夜に釜を抜かれるということもあるので、外出時は常に貴重品を身につけておくことにしよう。
  • 彼女は試験勉強に集中しすぎて、健康を害してしまった。大事な試験を受けられなくなり、月夜に釜を抜かれる結果となった。
  • チームはリードしていたため、勝利を確信していたが、最後の瞬間に逆転されてしまった。月夜に釜を抜かれるような、予期せぬ敗北だった。

月夜に釜を抜かれるの類義語をご紹介

「月夜に釜を抜かれる」に似た意味を持つ言葉として、「鳶に油揚げをさらわれる」があげられます。

「月夜に釜を抜かれる」と同様に、油断している隙に大切なものを失うという意味を持ちます。

油揚げを持っている人が、鳶(とんび)にそれを奪われる様子から来ています。

不注意や油断が原因で、思わぬ損失やトラブルに見舞われる状況を指します。

このことわざも、注意深く行動することの重要性を教えるために使われます。

月夜に釜を抜かれるの対義語をご紹介

「月夜に釜を抜かれる」と反対の意味を持つ表現を、以下に3つ紹介します。

念には念を入れる(ねんにはねんをいれる)

十分な注意や用心を重ねることを意味します。

すでに用心している状況でも、さらに慎重に行動することを勧める言葉です。

「月夜に釜を抜かれる」のような油断からくる失敗を避けるための姿勢を示していると言えます。

石橋を叩いて渡る(いしばしをたたいてわたる)

非常に慎重で用心深い行動を取ることを指します。

たとえ安全であると確信していても、念のために再確認する態度を表す言葉です。

こちらも「月夜に釜を抜かれる」の反対の状況、つまり油断しない態度を示しています。

焼き鳥にも攣(やきとりにもへお)

焼き鳥を焼く際にも、焼きすぎないように細心の注意を払うという意味です。

ここから、極端なまでに慎重であることを表しています。

まとめ

「月夜に釜を抜かれる」とは、油断して大切なものを失うことを意味する日本のことわざです。

油断した結果、思わぬ失敗につながることは誰にでもあると思います。

日々の生活の中で、常に注意を払い続けるのは難しいですが、いらぬ失敗は避けたいところです。

特に、価値あるものや重要な瞬間には、油断せずに目を光らせたいものですね。