ヒノカグツチ神の概略
「恵み」と「恐れ」の両面の性格を持つヒノカグツチ神
「火之迦具土」と書いて、「ヒノカグツチ(あるいはホノカグツチ)」と読みます。
また、古事記では「火之夜芸速男(ホノヤギハヤオ)」、「火之炫毘古(ホノカガビコ)」とも呼ばれ、「日本書紀」では「軻遇突智(カグツチ)」、「火産霊(ホムスビ)」と表記されています。
名前が示す通り火の神様であり、日本神話の中で火に関係する最も重要かつ代表的な存在です。
古代の人間にとって、火は火山の噴火や山火事などを引き起こすため、恐れの対象でした。
それが徐々に人間の生活に取り入れられ、今では人間が日々暮らしていくのに欠かせない存在となっています。
けれども、人間の生活には欠かせない存在である一方で、いつになっても災害をもたらす存在という認識はなくなることはないでしょう。
そういう意味で、火というのは恐れと恵みの二面性を持った存在と捉えられます。
ヒノカグツチ神にもそういう性質を持っています。
例えば、京都にある愛宕神社の若宮にはヒノカグツチ神が祀られていますが、これは鎮火や防火の意味があると考えられています。
実際、ウィキペディアによると、
「火迺要慎(ひのようじん)」と書かれた愛宕神社の火伏札は京都の多くの家庭の台所や飲食店の厨房や会社の茶室などに貼られている。
また、「愛宕の三つ参り」として、3歳までに参拝すると一生火事に遭わないと言われる。
とあります。
また、愛宕神社は日本各地にあり、その神社を擁する山は中世より山伏などの修験者が生活するところでした。
修業をした修験者は日本各地を渡り歩いて信仰を広めたため、ヒノカグツチ神が防火の神として庶民の間にも浸透していったと言われています。
現在の日本では火の神様を祀るという習慣はなくなりましたが、昔はどこの家庭も台所に火の神様が祀られているのが普通でした。
このように、火というのは人間の生活に利便をもたらすものではありますが、他方で火の神様を祀ることで災厄を被らないようにするというように、恵みだけでなく脅威の対象としてとらえられていたということです。
ヒノカグツチ神の神話学的性質
古事記によると、ヒノカグツチ神はイザナミ神から産まれますが、イザナミ神の陰部を焼いてしまい、それが原因でイザナミ神が亡くなってしまうとあります。
この記述も、火の恐ろしい面を表していると考えられますね。
また、このエピソードは神話学・文化人類学的に次のような説明がされることがあります。
それはどういうものかと言うと。
原始時代の人類は木の板などを地面に敷き、そこに棒状の木などを突き刺すことによって火を起こしていました。
底面の木板の穴に棒状の木を回し、その摩擦熱で火を起こしていたわけです。
再現した様子をご覧になった方も多いと思います。
管理人は実際に少年時代にキャンプに行ったときに、火の起こし方の教室みたいなところで、この方法で火を起こすことができました。
そして、この穴に棒を突き刺して回すという光景が、人間の性的営みを連想させたということなんです。
女性の陰部に火が生じるというのは、このモチーフと考えられるわけです。
まあ、ちょっと生々しいお話かもしれませんが(汗)
ですが、女性の陰部に火が起こるというお話は世界各地の神話や民話伝承でも少なからず存在します。
また、ヒノカグツチ神は、怒ったイザナミ神によって剣で殺されてしまいますが、このときにヒノカグツチ神の血が噴き出て、イワサク神やネサク神、タケミカヅチ神などが産まれました。
これは、火山が噴火したときの様子を表したものと考えられることがあります。
ヒノカグツチ神を祀る神社
- 秋葉山本宮秋葉神社
- 愛宕神社
- 伊豆山神社
- 陶器神社
- 豊麻神社
など。