普通に社会生活をおくっていると、お役所などで色々と手続きをする機会があるかと思います。

そのとき、「申請」あるいは「届出」という言葉がよく出てきます。

一般的な言葉の響きでは、この2つに大きな違いはないように思えるかもしれません。

ですが、法律用語として、両者には大きな違いがあります。
特に行政手続法という法律で、申請と届出はしっかりと定義されているんです。

両者の違いを簡単に言うと、

  • 申請に対しては、行政庁が認めるか、認めないかを通知しなければならない
  • 届出に対しては、行政庁は何らかの応答をする必要はなく、届出が提出された時点で手続きは完了する

となります。

注意したいのは、「○○届」と呼ばれるものでも、法律上は申請に区分されるものがあることです。

その他、行政庁の義務や法律効果などで、色々な違いが生じてきます。

それらの違いを踏まえて、申請と届出の違いについて、具体例を交えながら分かりやすく説明しました。

ご参考になれば幸いです。

申請とは?

申請については、行政手続法の第2条で、次のように定義されています。

法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。

条文だけを見ると、何を言っているのか、よく分からないかもしれません(^^;)

簡単に説明すると、何らかの許可を行政庁に求めた場合に、行政庁がその求めを認めるかどうかを審査しなければならないもの、ということになります。

例えば、飲食店を営業したいとしましょう。
この場合、当然ですが、その旨を行政庁に届けただけで開業できるものではありません。
行政庁が衛生面や人事面からしっかりと審査して、許可するかどうかを判断します。
したがって、審査の結果、飲食店の営業が認められない場合も出てくることになります。

また、失業などで生活が苦しくなり、生活保護を受けたいとします。
この場合も、その意思だけで生活保護が受けれるわけではなく、行政庁の審査があり、その判断を待たなければいけません。

このように、自己に対し何らかの利益を付与する処分を求める行為(「飲食店の営業の許可がほしい」「生活保護の認定がほしい」)で、それに対して、行政庁が認めるかどうかの応答をしなければならないのが、申請になります。

申請は、行政庁の審査により、申請した者に対して認めないという判断が下されることもあるわけです。
この場合、申請した者に対しては不利益に扱うということになるので、申請に関しては、法律で行政庁側にも大きな責任を課しています。

具体的には、行政手続法で、

  • 審査基準(必須)
  • 標準処理期間(努力義務)

を定めるものとしています。

1つ目の審査基準は必ず設けなけばならず、かつ、できる限り具体的にしなければならないとされています。
そして、特別な支障がないかぎり、審査基準は公にしなければなりません。
行政庁の事務所などで見れる状態にしておくことが求められますが、最近はホームページなどで審査基準を公表しているケースが多いようです。

2つ目の標準処理期間とは、申請が行政庁の事務所に届いてから、申請に対する処分をするまでの期間のことです。
通常要すべき標準的な期間とされており、常識的に考えて必要な期間ということになります。

ただし、標準処理期間は必ずしも定めなければならないものではなく、努力義務とされています。
ですが、標準処理期間を定めた場合は、公にしなければなりません。

さらに、申請を拒否する決定をした場合、原則として、行政庁はその理由を申請者に知らせなけばならず、かつ、その理由は書面でしなけばならないとされています。

届出とは?

届出も申請と同じように、行政手続法の第2条で、次のように定義されています。

行政庁に対し一定の事項の通知をする行為(申請に該当するものを除く。)であって、法令により直接に当該通知が義務付けられているもの(自己の期待する一定の法律上の効果を発生させるためには当該通知をすべきこととされているものを含む。)をいう。

申請との違いは、届出が行政庁に到達すれば当然に効果が生じ、行政庁の審査はない点です。
したがって、届出に対して行政庁が認めないということはありません。
法律で届出をするだけで、その効果が与えられるものが決まっており、所定の手続きにしたがって提出するという義務を果たせばよいだけとなります。

例えば、個人事業主として独立する場合、基本的には開業届を指定の行政庁に提出するだけで、個人事業主としてビジネスをすることができます。
ただし、当然のことですが、許認可がないと開業できない職種もあります。
不動産業や旅館業、飲食店業や中古品販売業などなど。
これらの職種は、届出ではなく、申請が必要になります。

また、引っ越しをするときに必要となる転出届や転入届は、役所が内容を審査するというものではありません。
これらの届が提出された時点で、住所変更の手続きは完了することになります。
転出届や転入届は、届出の典型例として、よくあげられます。

なお、「提出するだけで」「提出された時点で」という表現を使っていますが、厳密に言うと、届出の提出先とされている機関の事務所に到達すれば、手続き上の義務は果たされることになります。

届と呼ばれるものでも申請の場合がある

これまでの説明で、申請と届出の違いは、大体お分かりいただけたと思います。

ただし、冒頭でも述べたように、○○届と呼ばれるものでも、実質には申請に該当する場合があります。

例えば、「婚姻届」。
婚姻届を提出すれば、それだけで結婚が成立すると思われがちですが。
実は、婚姻届を受け付けた市町村長が内容を審査し、届を受理するかどうかの判断をすることになります。
したがって、その性質上、婚姻届は届出ではなく、申請になるというわけです。

その他、先に例としてあげた、開業届や営業届で許認可が必要となるものがあり、申請に該当する場合があります。

まとめ

申請と届出の違いを簡潔にまとめると、以下のようになります。

  • 申請:行政庁の審査があり、行政庁は諾否の応答をしなければならない
  • 届出:行政庁の審査なし。必要な書類が法律で定められた形式上の用件を満たせば、提出先の行政庁に届いた時点で手続きが完了する

申請は拒否されると、申請者に不利益となるので、特に事前の救済措置の要請が求められ、行政庁は必ず審査基準を定めて公表しなければいけません。
標準処理期間の設定は努力義務ですが、定めた場合は公にしなければいけません。

また、婚姻届のように、言葉としては届出のように思われるものでも、申請に該当する場合があるので、注意が必要となります。