「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した「元彼の遺言状」!
文庫化された原作を読みましたが、めちゃめちゃ面白かったです。
できるだけネタバレにならないように感想を書いていきたいと思います。
ただ、2022年4月期のフジテレビ系列月9でドラマ化されるに伴い、すでに少しだけネタバレされているので、そこは触れていきます。
ドラマ化されるという話は、以前から聞いていましたが。
まさか連続ドラマで、しかも月9で放送されるとは知りませんでした。
大好評だった「ミステリと言う勿れ」の後ということもあり、ドラマも期待大です。
大まかなあらすじ
まず、大まかなあらすじから見ていきましょう。
主人公は、敏腕の女性弁護士・剣持麗子。
年齢は28歳。
たまたま、大学生時代に付き合っていた元彼の先輩にメールをしたところ、その彼が亡くなっていたことを知ります。
元彼との交際期間は3ヶ月ほどしかなかったこともあり、麗子は彼の素性をほとんど知りませんでした。
ところが、その彼は、実は大手製薬会社の御曹司であることが明らかになります。
彼の名前は、森川栄治。
享年30歳。
大手製薬会社・森川製薬の現社長の森川金治の次男でした。
森川栄治には莫大な遺産がありました。
その総額は、推定約60億円とも!
しかし、奇妙なのは、森川栄治の遺言状でした。
「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る。」
こんな風変わりな遺言は聞いたことがない…
しかも、栄治の死因はインフルエンザであり、殺人とは無関係という話。
晩年は重度のうつ病を患い、体力が低下していたため、インフルエンザに勝てなかったということでした。
さらに、遺言状は先の1つだけでなく、
- 犯人の特定方法については、別途、村山弁護士に託した第二遺言に従うこと。
- 死後、三ヶ月以内に犯人が特定できない場合、僕の遺産はすべて国庫に帰属させる。
- 僕が何者かの作為によらずに死に至った場合も、僕の遺産はすべて国庫に帰属させる。
と続いています。
この奇妙な遺言状は、栄治の叔父である森川銀治によって、動画投稿サイトで内容が拡散され、大きな話題となっていました。
また、森川栄治の第二遺言状で、犯人の特定方法は、①森川金治(代表取締役社長)②平井真人(取締役副社長)③森川定之(取締役専務)の3人が、犯人と認めた者を、犯人とする、とされていました。
そのため、遺産目当てに、自称犯人が続出。
森川製薬では、犯人選考会なるものが開かれるという始末。
主人公の剣持麗子がこの詳細を知ったのは、大学のゼミの先輩で、森川栄治とも交友が深かった篠田という男から。
篠田は言います。
「栄治が亡くなる一週間前に、僕は栄治と会っているんだ。そのとき、僕はインフルエンザの治りたてだった。どうかな。僕は60億円、もらえるだろうか?」
つまり、篠田が栄治の遺産を手にしようと、麗子に依頼したというわけです。
自身が受け取れる報酬と今後のキャリアとを両天秤にかけ、一度は依頼を断った麗子でしたが。
その後、詳しく調べてみると、森川栄治の遺産はザっと見積もっても1000億円ほどありました。
はやる気持ちとは裏腹に、冷静に考えると、それでもリスクは高い。
しかし、頭の動きとは別に麗子の奥底に流れる何かが、彼女を突き動かします。
そして、篠田に電話をかけ切り出しました。
「完璧な殺害計画をたてよう。あなたを犯人にしてあげる」
ストーリーが急展開!真相が解き明かされる仕掛けに脱帽!
前項の大まかなあらすじは、全7章のうちの第1章までの話です。
ここまでは、原作の紹介でも、ドラマの予告でも、ある程度語られているようなので、ネタバレにはならないでしょう。
物語の序盤は、計画を練って、篠田を犯人に仕立てあげる様子が描かれていきます。
その間に、森川家の親族やゆかりの人物と出会い、それぞれの人物の詳細も紹介されていきます。
さて、私個人の感想としては、まさに王道のミステリーという印象です。
色々な仕掛けは施されているものの、決して奇をてらいすぎず、真正面から攻めている感じ。
ただ、一応法律関係の士業の資格を持ってる身ということもあり、同業者目線で読んでいたところがあります。
例えば、作中でも出てきますが、民法90条の公序良俗違反。
法律に詳しい方はご存じだと思いますが、民法では90条で「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」と定められています。
要するに、常識で考えておかしな法律行為は、たとえ当事者が合意したとしても、無効になるよ!ということです。
だから、当然、森川栄治の遺言状にある「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」というのは、この民法90条に違反する可能性が大きいわけです。
だって、どういう理由があろうと、殺人を犯した者が遺産を受け取れるというのは、おかしな話ですよね。
よく、殺し屋に報酬を支払って殺人を依頼したとしても、そんな契約は無効になると言われますが、これは公序良俗違反になるからです。
そういうわけで、主人公の剣持麗子は、民法90条の公序良俗違反にひっかからないように色々画策していくんですね。
その他、作者の新川帆立さんが現役の弁護士ということもあり、法律関係の話がいっぱい出てきます。
ですが、そのたびに素人にも分かりやすく語られているので、筋を追うのに苦労はしません。
むしろ、そういった法律のお話を興味深く味わうことができるという感じです。
で、私はある程度法律の知識があるのですが、特に弁護士という職業の生々しい実体験について、色々学ばせてもらったというふしがあります。
(私は、とある法律関係の士業の資格は持っていますが、司法試験にはまだ受かっていません)
例えば、研修中に、過労死や事故死などの物騒な死に方をした人たちを見てきたとか。
暴力団対応のカリキュラムで、暴力団員に扮する弁護士が受講者をおどし続ける中で、決して謝らず、怯まず、ただ用件を伝えるとか。
うわ~、やはり、そういう体験を積んでいかなきゃいけないのか~と。
自分にはできるかな?と、どうでもいい不安を抱いたりしました(汗)
まあ、さすがにミステリー小説ということで、それはいくら何でも無理だろう?というお話はありますけどね。
そして、序盤の展開から、犯人選考会でライバルたちと争って遺産をどうやって獲得していくか?
そこから発展して、法廷ミステリーのような物語になるのかな?と、私は予想していました。
ところが、ところが…
物語のちょうど中盤から、ストーリーが急展開!
いい意味で、私の期待が裏切られます。
中盤からラストまでは、まさに怒涛の展開!
次々と今までの伏線が回収され、事件解決へと向かっていきます。
その流れが、実に見事!鮮やか!
物語の前半はゆったりと時間が流れている感じですが、後半は一気にスピードアップ!
その緩急が、とても素晴らしいです。
なので、テンポよく読み進めることができ、読者を飽きさせないようにしっかりとストーリーが組み立てられているんですね。
個人的に、法廷ミステリーに進んでも十分読み応えがあったと思いますが、まあ、これに関しては人それぞれですね。
また、物語の前半は、人のよってはちょっと退屈だな~と感じることもあるかもしれません。
でもでも、後半の矢継ぎ早やにタネがどんどん明かされていく展開に備えて、注意深く登場する出来事を整理しておくことをおススメします。
特に、森川栄治の兄である富治が語る、文化人類学の概念である「ポトラッチ」。
大学の思想とか哲学の授業などで、聞いた方もいらっしゃると思います。
個人的には、そういう概念あったなぁという、懐かしい響きを感じましたが。
物語の中で、いささか唐突に登場した言葉だったので、事件に関係あるのかな?とひっかかっていました。
すると、やはり、森川栄治の遺言状の謎を紐解く、重要なカギの1つとなるものでした。
というわけで。
前半に張り巡らされた謎や伏線が、後半になって全て解き明かされていく、決して奇策を用いない王道のミステリー。
そこに、現役弁護士ならではの法律の知識や事例がふんだんに盛り込まれ、よりリアリティを醸し出していく。
元彼の遺言状は、そんなミステリー作品となっています。
登場人物の個性がまた凄い!
項目を分けての感想となりますが。
元彼の遺言状のもう1つの魅力は、主人公・剣持麗子をとりまく登場人物たちにもあるかと思います。
元彼の森川栄治を通じて、森川家の親族やゆかりの人物たちが登場し、その人となりがかなり深堀りされていきます。
正直、人間関係はなかなか複雑です。。
それを考慮してか、文庫本には、目次の後に森川家の家系図が記されています。
で、それを基に、最初は人間関係を把握していくという感じでした。
ですが、途中から、そういう必要はなくなります。
というのも、登場人物が全員個性豊かで、一度登場したら決して忘れないくらい特徴が際立っているんです。
大抵、ミステリー小説って、登場人物の関係が複雑なうえに、人物それぞれのキャラが薄くて埋没してしまうものですが。
元彼の遺言状では、登場人物の個性をしっかり区別して、濃淡をつけている感じなんです。
なので、複雑な人間関係も、いつの間にかすんなりと頭の中で整理されていきます。
まあ、多少、キャラが強烈すぎて現実離れしているなぁと感じる部分もありましたけどね。
特に、元彼の森川栄治は、お金持ちのおぼっちゃんで、ナルシストとして描かれていますが。
その一つ一つの言動に対して、「そんな奴、おらんやろ~」とツッコミを入れたくなります(笑)
でも、それがまた面白い!
読者を飽きさせない工夫がほどこされているというわけです。
そして、そして。
やはり、主人公の剣持麗子の魅力について触れないわけにはいかないですね。
彼女の性格を一口で言うなら、お金に貪欲でプライドが高くて、自信家。
弁護士になったのも、正義感とは無関係で、自分の腕一つで稼げるという理由からと、彼女自身が自己分析しています。
そのため、正直、同性からも異性からも好かれるタイプではないと思います。
私自身、彼女やお嫁さんにはしたくないなぁと思いました(汗)
けれども、綺麗ごとが嫌いで、ここまで徹底して現実的だと、逆に爽快に感じます。
そういう強烈な個性を持つ主人公が、本作の魅力の1つであることは間違いないですね。
特に私にとっては、剣持麗子という女性は恋愛の対象とはならないかもしれないけど、彼女のような人間にはなりたいと思うところがあります。
というのも、彼女のようなタフな性格で行動力も抜群、頭脳明晰で自分に自信があるというのは、私には欠けているものなので。
だからこそ、剣持麗子という女性、というより、性別は関係なく、彼女のような人間に憧れますね。
さて、ここまで、元彼の遺言状の感想を長々と語ってきましたが。
すでにドラマ化が決まって、2022年の4月からフジテレビ系月9でドラマが始まります。
主人公の剣持麗子を演じるのは、綾瀬はるかさん。
依頼人の篠田役は、大泉洋さん。
ただ、ドラマでの篠田は原作とは異なり、剣持麗子と一緒に事件を解決していく相棒になるという設定のようです。
この設定により、ドラマの展開が原作と少し違ってくるものと予想されます。
いずれにせよ、原作はめちゃめちゃ面白かったので、ドラマも間違いなく面白いでしょう。
原作をご覧になっていない方でも、もちろん楽しめる作品に仕上がっていはずです。
ドラマ「元彼の遺言状」も、是非ご期待ください!