法律用語には「みなす」と「推定する」という言葉があります。
日常で使う場合には、大きな違いはないように思えますね。
ですが、法律用語として使われると、両者にはなかなかに大きな違いがあったりします。
私も、大学の「法律総論」だったか、もう授業名は忘れましたが、そのときの講義で初めて知りました。
まどろっこしい、ややっこしいと思っていましたが…
いやいや、要点をおさえれば、両者の違いは簡単に覚えられるものです。
というわけで、この記事では、「みなす」と「推定する」の違いについて、分かりやすく説明しました。
ご参考になれば幸いです。
「みなす」の意味
「みなす」という法律用語の意味は、ある一定の事実があった場合に、それとは異なる別の事実として見なされることを言います。
このとき、例外や反証は許されず、絶対的なものとして扱われます。
と言っても、抽象的な説明で具体的にどのように取り扱われるのか、分かりにくいですね。
そこで、例をあげてみます。
例えば、民法753条では、
未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす。
と規定されています。
この場合、Aが婚姻して成年とみなされると、Aがわざわざ自分が成年であることを証明する必要はありません。
また、仮に成年であることを認めないBという人がいるとして、BがAが成年でないことを証明したとしても、Aが成年であることを否定できません。
というより、そもそも未成年者は成年ではないので、成年であることを証明することはできませんよね。
婚姻をしたとはいえ、その時点で未成年者であったなら、成年であるはずがないわけですから。
このように、証明できない事実であっても、その事実が別の事実としてみなされると、全く同じものとして取り扱われるということになります。
もう1つ例をあげてみます。
民法113条では、代理権のない人が勝手に行った契約は、勝手に行われた本人がそれを認めないと、原則としてその契約の効力は生じないと定められています。
そして、それを受けて民法114条では
前条の場合において、相手方は、本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、本人がその期間内に確答をしないときは、追認を拒絶したものとみなす。
と規定されています。
つまり、契約の相手側にとっては、代理権のない人が行った契約について、定められた期間内に本人から連絡がない場合、本人がその契約を認めなかったことになるということです。
この場合、定められた期間の内に、当の本人は契約を認めていた可能性はありますよね。
けれども、たとえ本人が認めていたとしても、期間内に相手側にその旨を連絡をしない限り、本人が契約を認めていることを証明できたとしても、114条の規定は覆らないということになります。
以上のように、「XはYとみなす」という規定があれば、仮にXがYではないことを証明できたとしても、XとYは全く同じ事実として扱われ、何人も否定できない効力を持ちます。
極端な例になりますが、「のび太のものは、ジャイアンのものとみなす」と認められたら、のび太が自分のお金で買ったお菓子やおもちゃであっても、全てジャイアンのものになってしまい、誰もそれに逆らうことはできないということです。
推定するの意味
「推定する」という法律用語は、事実であるかどうかわからない事柄を、法律上は一定の事実があるものとして扱うことを言います。
この場合、もし反証があったなら、その事実は否定されます。
「みなす」とは異なり、一応は事実として認められるものの、絶対的な効力はなく、事実が否定される余地があるということになります。
こちらも例をあげてみます。
民法772条1項では、
妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
と定められています。
この「推定する」という規定により、原則としては、妻が懐胎した子供は、妻の夫の子供であるとされます。
ただし、DNA鑑定などで夫の子供でないことが証明されたりすると、夫の子供であることが否定されます。
実際に、妻の不貞行為によって、夫とは別の男性の子供を宿すということもあり得るでしょう。
この場合、証明しなければならないのは夫の方となります。
妻は夫の子供であるという事実を主張するのに、証明をする必要はありません。
つまり、反証があれば推定される事実が否定されるので、そういう事実はないと主張する側(反証する側)が証明する義務を負うということです。
まとめ
以上、「みなす」と「推定する」の違いについて説明しました。
最後に、思いっきり単純化してまとめてみます。
- 「白を黒とみなす」とされた場合
たとえ白であることを証明できても、黒が事実として扱われる - 「白を黒と推定する」とされた場合
白であることを証明できたなら、黒ではなく白が事実として扱われる