新型インフルエンザ等対策特別措置法とはどんな法律?
もともと、新型インフルエンザ等対策特別措置法(通称:新型インフル特措法、インフルエンザ特措法など)は、2009年に新型インフルエンザが流行したため、その対策として2012 年に成立しました。
この法律では、新型インフルエンザなどの感染症が発生したときに、国や各自治体、さらには企業までが、どのような対応をとるべきかについて記されています。
具体的には、感染症に対する行動計画や業務計画の作成、国民への知識の普及、国や自治体の対策本部の設置などがあります。
また、「国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあり」「その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがある」場合は、政府が「緊急事態」を宣言できるとしています。
新型コロナにより、インフルエンザ特措法が改正されたのはなぜ?
2020年に猛威をふるっている新型コロナですが、実は新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象外の感染症という位置付けだったんです。
新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、「特措法」と表記)では、第2条の1項で、
新型インフルエンザ等 感染症法第六条第七項に規定する新型インフルエンザ等感染症及び同条第九項に規定する新感染症(全国的かつ急速なまん延のおそれのあるものに限る。)をいう。
とあります。
ところが、新型コロナウイルスは、感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)第6条の8項に定められている「指定感染症」とはなってはいるものの、同7項の「新型インフルエンザ等感染症」にも、9項の「新感染症」にも該当していません。
しがって、特措法の適用はなかったというわけです。
ですが、新型コロナウイルスにより国民の生命及び健康に重大な影響を与えることが懸念される状況になったため、2年を超えない範囲内において、第2条の第1号に定められている新型インフルエンザ等とみなして、特措法が適用されることとなりました。
これが、2020年3月13日に成立し、その翌日の3月14日に施行された特措法の改正ということになります。
具体的には、特措法の附則に第1条の2を新しく設けて対応した形となっています。
インフルエンザ特措法と緊急事態宣言の関係は?
皆さんご存じの通り、2020年4月7日に「緊急事態宣言」が発令されました。
緊急事態宣言とは、国が国民の生命を守るために法令に基づいて発動する措置のことです。
首相が対象地域と期間を定めて、その都道府県知事が住民に外出自粛や各種施設の使用停止などの要請・指示をすることができます。
具体的には、都道府県知事は以下の措置ができるとされています。
- 外出自粛要請、興行場、催物等の制限等の要請・指示(潜伏期間、治癒するまでの期間等を考慮)
- 住民に対する予防接種の実施(国による必要な財政負担)
- 医療提供体制の確保(臨時の医療施設等)
- 緊急物資の運送の要請・指示
- 政令で定める特定物資の売渡しの要請・収用
- 埋葬・火葬の特例
- 生活関連物資等の価格の安定
- 行政上の申請期限の延長等
- 政府関係金融機関等による融資
新型インフルエンザ等対策特別措置法は、今回の緊急事態宣言の根拠となる法律となります。
前述の通り、特措法には政府(対策本部長)が緊急事態を宣言できる旨が定められています。
そのときの要件も先述の通り、
- 国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがある
- その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがある
の2つとなります。
新型コロナウイルスがこの2つの要件を満たすと考えられたので、特措法を改正して緊急事態宣言を発令したということになります。
この一連の流れに関して、一部では緊急事態宣言を発動するのが遅いという批判がありました。
なぜ緊急事態宣言の発令が遅くなったかというと、新型コロナウイルスが特措法の対象外の感染症と位置付けられていたため、急きょ特措法を改正しなければいけないという手間がかかったからです、
これも、先に述べた通りですね。
中には、特措法自体が現在の実態にそぐわない法律という批判の声もあり、新たに特措法を作り直すべきだという考えもあるようです。
インフルエンザ特措法の再改正はどうなるの?
2020年7月現在で問題となっているのは、特措法に企業の休業補償や感染対策をしない事業者に対する罰則がないことです。
休業補償に関しては、政府が補正予算で自治体向けの臨時交付金を3兆円計上し、そこから自治体が休業要請に応じた事業者の補償に充てることを容認しています。
ですが、各自治体からは、交付金だけでは財源が足りず、もっと確実に休業補償ができる法的措置が必要であるという声が出ています。
また、感染対策をしない事業者に対しても、罰則がないため法的拘束力は弱く、結局は各事業者の倫理観や良心といった個人的な価値観に頼らざるをえないという意見が多いようです。
これらの声を受けて、政府は休業補償と罰則規定を盛りこんだ特措法改正に前向きに取り組む考えを示しました。
ただし、今回の特措法再改正となると、臨時国会を開く必要もあり、法改正には時間がかかると考えられています。
そのため、まだしばらくは現在の法律で対処していくことになると思われます。