国会には衆議院と参議院があることはご存じかと思います。

基本的に国会の議決については、衆参両議院で可決される必要があります。

しかし、衆議院と参議院で異なる議決が行われた場合、何らかのルールを設けないと、当該議題の解決が滞ってしまいます。

そこで、憲法や法律で、一定の場合において衆議院の議決を優先する仕組みを定めています。

今回の記事では、衆議院の議決が優先されるケースを解説したいと思います。

憲法上の衆議院の優越

法律案の議決

法律案の議決に関しては、憲法の59条によって衆議院の優越が定められています。

まず、59条の1項で両議院の可決によって法律が成立としていますが、2項では、衆議院で可決した後に参議院で異なった議決が行われた場合、衆議院の出席議員の3分の2以上の多数で可決したときは、当該法律案が成立します。

一般的に国会の議題は衆参両議院とも、出席議員の過半数で決定しますが、参議院が異なる議決をしているのに衆議院の議決が優先されることから、再可決を3分の2以上にしていると考えられています。

また、59条の4項は、衆議院が可決した法律案を参議院が受け取ったあと、国会休会中の期間を除いて60日以内に議決しないときは、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができることを定めています。

この場合は、2項と同じように取り扱われ、衆議院の出席議員の3分の2以上の多数で可決した場合、法律案が成立します。

予算の承認

憲法60条で、予算の承認に関して衆議院の優越が定められています。

まず、1項で、予算はさきに衆議院に提出しなければならないとされています。

予算の先議権と呼ばれますが、予算の承認は先に衆議院で議決を行わなければならず、その後に参議院が議決を行うということです。

このとき、衆参両議院で異なる議決がなされた場合、

  • 両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき
  • 参議院が衆議院の可決した予算を受け取ってから、国会休会中の期間を除いて30日以内に議決しないとき

に、衆議院の議決を国会の議決とすると、60条2項で定められています。

条約の承認

憲法61条では、「条約の締結に必要な国会の承認については、前条第2項の規定を準用する」と定められています。

つまり、60条2項の予算の承認の規定と同じように、衆参両議院で異なる議決がなされた場合、

  • 両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき
  • 参議院が衆議院の可決した条約の承認の可否を受け取ってから、国会休会中の期間を除いて30日以内に議決しないとき

に、衆議院の議決が国会の議決になるということです。

ただし、60条1項に定められている予算の先議権のようなものなく、条約の承認については先に衆議院に提出する必要はありません。

ここは注意しておきたいところです。

内閣総理大臣の指名

内閣総理大臣の指名に関して、憲法第67条2項で衆議院の優越が定められています。

内閣総理大臣に対して衆参両議院で異なる指名がなされた場合、

  • 両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき
  • 参議院が衆議院の指名の議決をしたあと、国会休会中の期間を除いて10日以内に指名の議決をしないとき

は、衆議院の議決が国会の議決になります。

国会法上の衆議院の優越

憲法以外でも、国会法で以下の3つのケースで衆議院の優越が定められています。

臨時会と特別会の会期

国会法の11条で、臨時会と特別会の会期は、両議院一致の議決で決めることとなっています。

ですが、13条で、両議院の議決が一致しない場合と参議院が議決しないときは、衆議院の議決が優先されるとしています。

国会会期の延長

国会法12条では、「国会の会期は、両議院一致の議決で、これを延長することができる」と定められています。

ただし、臨時会と特別会の会期と同じように、13条で、両議院の議決が一致しない場合と参議院が議決しないときは、衆議院の議決が優先されることになります。

法律案による両院協議会の開催請求

国会法84条1項では、法律案において、衆参両議院で同意が得られなかった場合、衆議院は両院協議会を求めることができるとされています。

また2項では、参議院が衆議院の回付案に同意しなかったときに限り、その通知と同時に両院協議会を求めることができるとされていますが、衆議院はその参議院の両院協議会の請求を拒否できると定められています。

まとめ

憲法で定められている衆議院の優越は、

  • 法律案の議決
  • 予算の承認
  • 条約の承認
  • 内閣総理大臣の指名

の4つです。

さらに詳しくまとめると、

議題 衆議院の
先議権
両院協議会の開催 参議院の議決がないとき 衆議院の再可決
法律案の議決 なし 任意
(必ずしも必要ではない)
60日以内に参議院が議決しないときは
衆議院は参議院が否決したものと
みなすことができる
あり
再可決される
予算の承認 あり 必要 30日以内に参議院が議決しないときは
衆議院の議決が国会の議決となる
なし
条約の承認 なし 必要 30日以内に参議院が議決しないときは
衆議院の議決が国会の議決となる
なし
内閣総理大臣の指名 なし 必要 10日以内に参議院が議決しないときは
衆議院の議決が国会の議決となる
なし

となります。

また、国会法上の衆議院の優越は、

  • 国会会期の延長
  • 臨時会・特別会の会期延長
  • 法律案における両院協議会の開催請求

となります。

以上となりますが、ご参考になれば幸いです。